充填材入りPTFEの主な種類
種類 | 特徴 | 主な用途 |
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ガラス繊維充填PTFE | – 強度、剛性、耐摩耗性が向上 – クリープ抵抗(変形しにくさ)も向上 – 化学的耐性はほぼそのまま | バルブシート、軸受、ガスケット |
カーボン充填PTFE | – 耐摩耗性、圧縮強度、熱伝導性が高い – 摩擦係数も低い – 耐薬品性は若干低下する場合あり | 高負荷軸受、シール材、リング |
ブロンズ充填PTFE | – 高強度、耐摩耗性と寸法安定性 – 電気絶縁性はやや低下 – 酸に弱くなる | 機械部品、ベアリング、摺動材 |
グラファイト充填PTFE | – 非常に低い摩擦係数(滑りやすい) – 自己潤滑性が高い – 耐摩耗性、耐薬品性も維持 | ピストンリング、スライド部品 |
モリブデン二硫化物(MoS₂)充填PTFE | – 摩擦低減効果が高い – 耐摩耗性向上 – 多少の強度アップも期待できる | 摺動面、機械内部部品 |
ポリマー系充填PTFE(エコノール充填・スミカスーパ充填など) | – 他の高性能ポリマー(例:PEEKなど)を混ぜて特性調整 – より高い耐熱性・耐摩耗性が可能 | 耐熱摺動部品、特殊機械部品 |
ガラス繊維充填PTFEの特徴
ガラス繊維充填PTFEは、PTFEに数%〜最大40%程度のガラス繊維を均一に混ぜ込んだ材料です。標準PTFEに比べ、以下の特性が向上します。

主な特徴
項目 | 特徴 |
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耐摩耗性 | 標準PTFEよりも大幅に向上。摺動面での耐久性アップ。 |
クリープ抵抗(寸法安定性) | 荷重をかけたときの変形が少ない。長期間使っても形状が崩れにくい。 |
機械的強度 | 引張強度・圧縮強度が高くなる。機械部品としての耐久性が増す。 |
耐熱性 | 使用温度範囲は標準PTFEとほぼ同じ(連続使用温度は260℃程度)。 |
耐薬品性 | ほとんどの薬品に耐えるが、強アルカリ(苛性ソーダなど)やフッ化水素酸には若干弱くなる。ガラス繊維部分が攻撃されるため。 |
電気絶縁性 | 純粋なPTFEより少し落ちるが、依然として良好な絶縁材料。 |
注意点
- 摩耗粉が出やすいので、清浄性が求められる場面(例えば食品・医療用途)には注意が必要です。
- 強アルカリ性環境ではガラス繊維が劣化する可能性があるので、使用条件を考慮する必要があります。
主な用途例
- バルブシート
- ガスケット
- 軸受(ベアリング)
- スライド部材
- シール材
摺動性(滑りやすさ)もある程度保ちながら、耐久性を高めたいときによく使われます。
カーボン充填PTFEの特徴
カーボン充填PTFEは、PTFEにカーボン(炭素系粉末、カーボンファイバーなど)を5~35%程度加えた材料です。標準PTFEと比べると、特に耐摩耗性・耐荷重性が大きく向上します。

主な特徴
項目 | 特徴 |
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耐摩耗性 | 非常に優秀。標準PTFEよりはるかに長寿命。 |
耐荷重性 | 圧縮強度が高く、変形しにくい。重い荷重にも耐える。 |
熱伝導性 | 標準PTFEより高い。熱がこもりにくく、摺動部品に向いている。 |
自己潤滑性 | 摩擦係数は低く、潤滑剤なしでもスムーズに動く。 |
耐薬品性 | 良好。ただし、カーボン充填により若干影響を受ける場合もある。特に非常に高濃度の酸化剤などには注意。 |
電気的性質 | 標準PTFEのような絶縁性は低下する(カーボンが導電性を持つため)。絶縁材には向かない。 |
注意点
- 導電性があるため、電気絶縁を求める用途には適しません。
- 純粋なPTFEに比べると若干の硬さが増すため、柔軟性が必要な場合は注意が必要です。
主な用途例
- 高荷重ベアリング
- ピストンリング
- スライドガイド
- バルブシート
- 高温高圧下での摺動部品
「高温・高圧・高摩耗」という厳しい条件に非常に強いので、産業機械やプラント機器の重要部品に使われることが多いです。
補足
ちなみに、カーボン充填PTFEにも細かいバリエーションがあります。
例えば、「カーボン+グラファイト」の複合充填タイプだと、さらに摩擦特性が向上したりします。
ブロンズ充填PTFEの特徴
ブロンズ充填PTFEは、PTFEに**ブロンズ粉末(主に銅とスズの合金)**を20〜60%程度混ぜ込んだ材料です。
金属系の充填材なので、機械的強度や耐摩耗性が大幅にアップします。

主な特徴
項目 | 特徴 |
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耐摩耗性 | 非常に高い。重負荷でも長期間耐える。 |
圧縮強度・機械的強度 | 標準PTFEや他の充填タイプよりも高い。寸法安定性も優秀。 |
熱伝導性 | 大幅に向上。熱がこもりにくく、発熱する箇所にも適している。 |
硬さ | かなり高く、摺動部品に適している。ただし硬すぎるとカウンター部材を削る場合もあるので注意。 |
自己潤滑性 | 標準PTFEよりは若干劣るが、それでも十分な滑り性能がある。 |
耐薬品性 | 標準PTFEより若干劣る。特に**酸性雰囲気(硝酸、塩酸など)**には注意が必要。ブロンズが腐食するおそれあり。 |
電気絶縁性 | 金属粉末を含むため、絶縁性は低下する。 |
注意点
- 酸に弱いため、酸性環境での使用には適しません。
- 高硬度なので、相手材への攻撃性(摩耗)に注意が必要です。
- 比重が高く(重たい)、設計時に考慮する必要があります。
主な用途例
- ベアリング、ブッシュ
- 高荷重スライド部品
- ピストンリング
- 高速回転軸受
- 機械シール
高荷重・高速の環境で機械的強度+耐摩耗性が求められる場面で非常に重宝されています。
グラファイト充填PTFEの特徴
グラファイト充填PTFEは、PTFEに**グラファイト粉末(炭素の結晶構造を持つ潤滑材)**を数%〜20%程度混ぜ込んだ材料です。
潤滑性と耐摩耗性がさらに強化されたタイプになります。

主な特徴
項目 | 特徴 |
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自己潤滑性 | 非常に優れており、摩擦係数が非常に低い(標準PTFEよりさらに滑らか)。 |
耐摩耗性 | 標準PTFEよりも高い。長寿命。 |
耐熱性 | 標準PTFEと同等、またはわずかに向上。高温環境でも滑り性を保つ。 |
クリープ抵抗 | グラファイトにより補強され、標準PTFEより変形しにくい。 |
耐薬品性 | 標準PTFEとほぼ同様に良好。幅広い薬品に耐える。 |
電気絶縁性 | グラファイトが導電性を持つため、絶縁性は低下する(導電性あり)。 |
特に優れている点
- 乾燥状態でも低摩擦を維持できる(潤滑油なしでもOK)。
- 高温でも潤滑性を保持するため、焼き付き防止に強い。
- 広い温度範囲で安定した滑り性能。
注意点
- グラファイト自体がやや軟らかいため、極端な高荷重には「カーボン充填PTFE」や「ブロンズ充填PTFE」より劣る場合もあり。
- 電気を通しやすくなるため、絶縁性が必要な用途には注意。
主な用途例
- ピストンリング
- スライドプレート
- ガスケット
- バルブシート
- シール材(特に乾燥環境や高温下)
滑り性能を最重視したいときに選ばれることが多いです。
モリブデン二硫化物(MoS₂)充填PTFEの特徴
モリブデン二硫化物(MoS₂)充填PTFEは、PTFEに微量(通常5~15%程度)のMoS₂粉末を加えた材料です。
MoS₂は非常に優れた固体潤滑材であり、この特性を活かしてPTFEの性能をさらに高めています。
主な特徴
項目 | 特徴 |
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耐摩耗性 | 標準PTFEより大幅に向上。摺動摩耗に強い。 |
摩擦係数 | 低い。滑らかな動きを維持しつつ、耐久性もある。 |
耐荷重性 | 標準PTFEより高い。圧縮下でも形状安定性が良い。 |
耐熱性 | 高温環境でも優れた潤滑性を発揮(PTFEの限界温度範囲内で)。 |
クリープ抵抗 | モリブデン二硫化物による補強効果で、長時間荷重にも変形しにくい。 |
耐薬品性 | 標準PTFEと同等。ほとんどの薬品に耐えるが、極端な酸化環境には注意。 |
電気絶縁性 | MoS₂は若干の導電性があるため、絶縁性は標準PTFEよりわずかに低下することがある。 |
特に優れている点
- 乾燥環境でも滑り性能が良好。
- 摩擦低減+耐摩耗性向上のバランスが非常に良い。
- 高荷重・中速摺動部に適している。
注意点
- **高酸化性雰囲気(高濃度オゾンなど)**ではMoS₂が劣化する場合があるため注意が必要です。
- 極端な導電用途には向かない(軽度の導電性あり)。
主な用途例
- 高負荷ベアリング
- 摺動プレート
- バルブ部品
- スライドリング
- シール材
特に「高荷重・中速・乾燥運転」のような厳しい使用条件に適しています。
エコノール充填PTFEの特徴
まず、「エコノール(Ekonol®)」とは、ポリフェニレン系樹脂(芳香族ポリマー)の一種です。
これをPTFEに充填すると、耐熱性、耐摩耗性、クリープ抵抗が大幅に強化された高機能PTFEコンパウンドになります。

主な特徴
項目 | 特徴 |
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耐摩耗性 | 極めて高い。特にドライ運転(潤滑剤なし)でも長寿命。 |
耐熱性 | 標準PTFEより向上。高温環境でも性能を安定して維持できる。 |
機械的強度 | 引張強度・圧縮強度ともに向上。荷重がかかっても変形しにくい。 |
クリープ抵抗 | 長時間荷重下でも寸法安定性が非常に良い。 |
自己潤滑性 | エコノールの特性により、乾燥状態でも低摩擦を維持できる。 |
耐薬品性 | PTFEの基本特性に近く、幅広い薬品に対して耐性を持つ。 |
絶縁性 | 基本的に高い(エコノールは絶縁性ポリマー)。 |
特に優れている点
- 高荷重・高温・高摩耗環境に強い。
- 潤滑剤を使わない摺動部でも抜群の耐久性。
- 相手材(カウンターパーツ)への攻撃性が低く、摩耗粉も少ない。
注意点
- コストは通常の充填PTFEより高価。
- 酸化性の非常に強い薬品(例:濃硝酸、高濃度オゾン)には若干注意が必要(ただしPTFE基材なので耐性は基本的に強い)。
主な用途例
- 高速摺動シール
- 高温ベアリング部品
- 航空宇宙機器のスライド部品
- 半導体製造装置の高耐久ガスケット
- 医療機器の摺動パーツ
「高温・乾燥・高荷重」という超過酷条件で、エコノール充填PTFEはかなり力を発揮します。
スミカスーパ充填PTFEの特徴
まず、「スミカスーパ」とは、住友化学が製造する高性能エンジニアリングプラスチック(ポリサルフォン系樹脂やPEEK系樹脂など)のブランド名です。
ここでいうスミカスーパ充填PTFEとは、PTFEに住友化学の高耐熱・高強度ポリマー(主にスミカスーパLCPなど)を充填した、高機能複合材料を指しています。

主な特徴
項目 | 特徴 |
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耐熱性 | スミカスーパ自体が高耐熱性(連続使用温度250~300℃クラス)なので、PTFEの耐熱性もさらに向上。 |
耐摩耗性 | 大幅に向上。乾燥摺動環境でも耐摩耗性能が非常に高い。 |
機械的強度 | 強化ポリマーにより、引張・圧縮強度が標準PTFEよりかなり高い。 |
クリープ抵抗 | 長期荷重下でも変形が少ない(寸法安定性が優秀)。 |
耐薬品性 | 基本的にPTFEの耐薬品性を保ちつつ、スミカスーパによる若干の調整が入る。広範な薬品耐性あり。 |
絶縁性 | 高分子充填なので、カーボンやブロンズ充填と違い、電気絶縁性は比較的良好。 |
特に優れている点
- 「高温+高荷重+摺動」でも変形しにくい、すり減りにくい。
- **潤滑油なし(ドライコンディション)**でも、長期間スムーズに動作可能。
- 純粋な無機充填材(ガラス・カーボン)では難しい柔軟性の維持も可能。
注意点
- 高機能ゆえにコストは高め。
- スミカスーパ系ポリマー特有の、強アルカリへの若干の耐性低下に注意が必要(※ただしPTFEの耐性が大きいので影響は小さめ)。
主な用途例
- 半導体製造装置用の摺動部品
- 医療機器(高温滅菌対応パーツ)
- 自動車エンジン・ターボ周辺パーツ
- 高精度バルブシート・ガスケット
- 航空宇宙用耐熱摺動部品
特に、超高温・超高負荷・超高精度が求められる現場で使われることが多いです。